ミュージシャンが語る配信ライブ
【配信勉強会の情報発信サイトミュージックスクラム】
今回はこの勉強会を発案されたギタリストの鬼怒無月さんと、ミュージシャンでアコーデ
ィオン奏者、ヴォーカリストで JASRAC 分配委員も務めていらっしゃるという小峰公子
さん(ZABADAK)に、ミュージシャン目線からライブ配信について伺いました。
ライブが次々と中止に
高円寺JIROKICHI店長金井(以下金井):去年の2月ぐらいでしたか……世間がコロナで
騒ぎはじめて、お店もミュージシャンの方々もライブが中止になったりしましたが、小峰
さんもやはりライブが中止になったり、延期になったりしましたか。
小峰公子(以下小峰):ZABADAK(1986年に東芝EMIよりLPレコード『ZABADAK-I』で
デビュー)が、4月の末に毎年行っている東京キネマ倶楽部の周年記念公演が中止になっち
ゃいました。 ZABADAKは毎年、年間を通して決まったライブが何本か入っているんです
が、それも全部飛んじゃいましたね。 結局、2月14日が通常の形でのライブの最後だった
かな。
金井:東京キネマ倶楽部みたいな大きな小屋だと中止にしたらキャンセル料とか大変じゃ
ないですか。
小峰:そう、それ……延期可能な期間を超えちゃうとキャンセル扱いになってレンタル料全
額の50万円かかります……と言われて。キャンセル料のかからない期限内に延期公演を
やろうと、みんなのスケジュールをやりくりしてなんとか開催しましたけど。
金井:大変でしたね。
その延期公演以降はしばらくお休みになっちゃったというか、何もせずに家でじっとして
いたんですか。
小峰:ええ。家でじっとしてましたね。何をしていたかはあまり覚えていませんけど笑。
でも鬼怒さんに誘っていただいて何度かライブをやりました。
金井:鬼怒さんも昔からたくさんライブをやっていらっしゃると思うんですが、やっぱり
全部中止になってしまった感じですか。
鬼怒無月(以下鬼怒):(2020年の)3月26日が最後で、4月はツアーも含めてた
くさんライブが入っていたんですが、結局全部なくなりました。
そんな中、お誘いがあって、4月に初めて秋葉原CLUB GOODMANさんで「是巨人」(吉
田達也、ナスノミツル、鬼怒無月によるプログレ+現代ジャズバンド)の配信ライブをや
ったんです。
金井:4月? 早いですね。配信やったミュージシャンの中で一番早いんじゃないです
か。
小峰:そう早かった。
あのころ、鬼怒さんがすごいと思ったのは、ほとんどのミュージシャンが、補償もらった
り助成金の手続きが面倒、とか言っていたときに、いち早く動いていたんです。とりあえ
ず配信でもなんでもやって少しでもお金が入るんだったら、ライブハウスの人たちに渡し
て、それで自分たちにもちょっとお金が入ればいいじゃないか……やればできるんだって
いうところを若いミュージシャンにも見せたいっておっしゃっていて。
鬼怒:そんなこと言ってた笑?
金井:かっこいい!
小峰:さすが鬼のようにスケジュールを入れて毎日ライブをやっている人は……言うことが
違うなって思いました。
鬼怒:……俺、えらいな笑。
小峰:えらい! それに、いろんなお店が配信を始めるきっかけを作ったり、先駆けにな
ったりしていた。
鬼怒:最初にやったその秋葉原の「是巨人」の配信ライブで、味をしめたんですよ笑。
JIROKICHIにも俺から連絡して、配信やらせてくれって笑。
金井:そうでした。JIROKICHI店内からの最初の配信は鬼怒さんのソロでしたね。積極的
にご協力いただいて、本当にありがたかったです。
ところで小峰さんが先ほど、家でじっとしていたときに、鬼怒さんに誘われてライブをや
ったとおっしゃっていましたが、それは配信ライブだったんですか。
小峰:そう、配信でした。それも秋葉原CLUB GOODMANさんでしたね。
金井:CLUB GOODMANさんは配信の設備を入れるのが早かったんですね。
小峰:そう、早かったですね。初めて配信ライブを観たのもCLUB GOODMANさんでし
た。さっき鬼怒さんがおっしゃっていた「是巨人」のライブです。観ていて、このクオリ
ティーならやってもいいかなって思ったんです。カメラワークや音も良かったし、ワクワ
ク感があったし。
金井:でも秋葉原CLUB GOODMANはその後コロナ禍で閉店しちゃって、最近経営が変わ
って復活したんですよね。
鬼怒:そうそう。色々あったみたいですね。俺は、今日、この対談が終わったらCLUB
GOODMANでライブなんだけど。
金井:そうなんですね! 秋葉原CLUB GOODMANさんには、初期のころの話など、いつ
か伺ってみたいですね。
アルバイトも考えた
金井:ところで、お二人とも、ライブ以外の仕事……リハーサルとか、レコーディングとか
そういうのも全部なくなちゃったわけですよね。
鬼怒:そう。バイトしようかなって思った。
金井:ええっ!
鬼怒:仕事がなくても……落ち込んでいたってしょうがないし。
近所にクロネコヤマトの配送センターがあるから、そこでアルバイトしようと思った。
金井:まじですか?
小峰:えー!笑
金井:ミュージシャンの補償の申請とか考えなかったんですか。
鬼怒:ミュージシャンの仲間がみんな、申請は難しいとか言ってるし、こりゃ自分にはで
きないなって思って……笑。ハナからあきらめていました。
金井:で、配送の仕事は結局やったんですか?
鬼怒:いや、やらずにすみました。配信ライブをたくさんやって、なんとかなった。
でも、配送の仕事だったら健康にも良さそうだし……。
金井:鬼怒さん、クロネコヤマトの制服、似合いそう!
小峰:やだなぁ。ドアを開けたら鬼怒さんが荷物を届けに来ているなんて笑。
金井:確かに笑。
小峰:きっと配送の合間とかに車の中でずっとギターの練習しているんでしょうね。
鬼怒:まあ、そうだろうね笑。
金井:鬼怒さんだけじゃなく、きっとミュージシャンの方たちはみんな、生活のことを考
えたでしょうね。だってライブもレコーディングもイベントも、大小全部なくなっちゃっ
たわけだから。
ライブハウスなどに徐々に通常の仕事が戻ってきたのっていつぐらいでしたっけ。
鬼怒:6月、7月くらいだったかな。最初はこっちがおっかなびっくりって感じで。
やっていいのかな、みたいなね。
小峰:お客さん、来てくれるんだろうか……とかね。
あと、こういう時期にライブをやるミュージシャンって、世間はどう見てるのかな、と気
になりました。
金井:現在(2021年5月)三度目の緊急事態宣言の延長で、うちも休業しています
が、去年のあのころの方がみんなピリピリしていたかもしれませんね。マスクをつけてい
ないミュージシャンに対して、非難の書き込みをする人がいたり……今もそういうことは
ありますが。
鬼怒:えーそんなことあったんだ。
でも、まあ、あのころはしょうがないっていうかね。
金井:みんな誰もが直面した初めての経験で、わからないことばかりだったですもんね。
初めての配信ライブ
金井:話は戻りますが、小峰さんは、初めて配信ライブをやったのはCLUB GOODMANさ
んで鬼怒さんと一緒ということでしたが、無観客でライブをやってみていかがでしたか。
小峰:ZABADAKでYouTubeの無料配信だったんですが、すごい視聴者数だったんです
よ。
スタッフの方が、配信画面のモニターをステージ前に置いてくれて、チャットの書き込み
がリアルタイムで見れたので反応が確かめられた。たくさん投げ銭も入れていただいて。
地方にいる方とか、子育て中でライブにいけない方とかが喜んでくれていたりして、そう
いうのはいいなと思いましたね。
金井:ぶっちゃけ、どのくらい視聴数があったんですか。
鬼怒:確か、同時視聴者数が最高で900人くらいだったと思う。
金井:すごい!
小峰:盛り上がっていましたね。
金井:あのころはしばらくライブハウスが休業していて、ミュージシャンも活動できなく
なって、お客さんもライブに飢えていたんでしょうかね。
小峰:そうだと思うし、ZABADAKは、そういう同時配信みたいなことをやったことがな
かったから。編成も三人という珍しい組み合わせで新鮮だったのかもしれませんね。
鬼怒:話が少しズレますが、思ったのは、俺たちミュージシャンは演奏することが仕事だ
し、人生そのものだと考えているけれど、リスナーも俺たちの想いと同じくらい音楽聴い
たりライブを観たりすることを、人生において必要としているんだってことが見えた気が
する。
金井:僕もこのコロナ禍で、ライブ会場に行ったりして音楽を聴くことが、人生の大きな
部分を占めているという人がたくさんいらっしゃるんだってことを強く感じましたね。
小峰:やっぱり音楽はなくてはならないものなのね。
失敗談・配信ライブには心がない?
金井:ところで、お二人はすでに何度も配信をやっていると思いますが、最初のころの失
敗談とかありますか。
小峰:最初のころっていうか……最近ありました。鬼怒さんと一緒のとき笑。
鬼怒:あーっ! でもあれは、配信の失敗というか……笑
小峰:まあ、配信自体の失敗ということであれば、私は、今のところないですね。
でも、私が関わっている別のバンドで、ファンの方がネットに弱くて、チケットが買えな
いとか、投げ銭できないとか、そもそも同時配信の視聴方法がわからないとか、そういう
ことはありましたけど。
金井:年配の方たちにとっては、いきなり最先端のハイテクに直面させられるわけですも
んね。
小峰:そのバンドではYouTubeの書き込み欄に、悲しいコメントを書かれたことがありま
した。
「配信には心はがない」みたいな……。
多分その方はお歳を召していらっしゃる方だと思うんですけど。
インターネット、配信という新しい文化に対応できるファン層と、そうでないの方々との
世代の違いみたいなのは切実に感じましたね。
金井:なるほどね……。
でも、若い世代だからってチケット買ってくれるわけじゃないんですよね。クレジットカ
ードを持っていないとか。
あと若い世代は、無料コンテンツに慣れているので配信を観て対価を払うっていうことに
何故? って思うのかもしれません。ですから、結局、配信とかネットが不得意の世代の
ファンの方が、頑張ってやり方を覚えてくれてチケットを買ってくれたりしているんです
よね。
鬼怒:まあ、若い子はしょうがないんじゃないかな。俺だって若いころはそういう感じだ
ったし。
ところで、さっきの……最近の失敗談、話します?
小峰:あ、あれね笑。
鬼怒:ついこの前、荻窪のルースターで小峰さんと配信ライブをやったんです。
リハーサルが終わって、本番まで時間があったから、ちょっと車で練習しようと思っ
て……それで譜面を持って一回店を出た。ところが、店に戻ったら譜面がないって騒ぎに
なって笑。どこかに置き忘れたのかもしれないと色々思い出して、途中寄った薬局とか探
しに行ったけどなくて……。
配信ライブは告知している時間が決まっているから時間を遅らせたりできないじゃないですか。
仕方がないから小峰さんのタブレットに入っていた元の譜面をプリントアウトしてもらっ
て、その見慣れない譜面を観ながら、辿々しい手つきで間違えたりしながら本番をやった
という笑。
小峰:プリントアウトしている間、ルースターのマスターの佐藤さんがMCで繋いでくれた
りしてね。
鬼怒:結局、譜面は、途中で寄った杉並公会堂のトイレにあった笑。小峰さんのスタッフ
の方が見つけて来てくれて、二部のステージにはなんとか間に合ったんですが笑。
小峰:以前のように、ライブだけだったら、お互い知っている曲とかで即興的なことやっ
て繋いだりできたと思うんですけど、配信もあるので、そういうわけにもいかないから。
鬼怒:あのときは、ほんとに青くなりましたね。
……あ、今、思い出しましたけど、初期のころ、ある店で配信やろうとしたら本番前にシ
ステムが落ちちゃって、1時間半ほど開演が遅れちゃって……それで仕方ないからファンの
方とTwitterでしりとりをして繋いだってことがありましたね。
小峰:あー! ありましたね。私、それ観てましたよ笑。
金井:ちなみに、JIROKICHIでもありましたよね。配信が止まっちゃって右往左往してい
るときに、鬼怒さんが徐にスマフォを取り出して、Twitterを始めようとして……。
JIROKICHI配信チーフ郡司:いつもと位置を変えて撮影しようとしたら、Wi-Fiが届かな
くて止まっちゃったんです。そうしたら鬼怒さんが「Twitterでしりとりで繋ぐから大丈夫
だよ」って言ってくれて笑。
鬼怒:大丈夫じゃないんだけど笑。
金井:その辺、鬼怒さんの冷静な判断力というか、対応力がすごい。
鬼怒:お客さん入っていなくて配信だけだから、なんとか凌げたけどね。お客さんいた
ら、会場でしりとりするわけにいかないから笑。
小峰:配信ライブは、アーカイブが残るっていうこともネックですよね。ライブだけだっ
たら、その場でやり散らかしちゃって、それを楽しんでもらうってのもありだと思うけ
ど……。
金井;なるほど、そうですね。
他には何か覚えている失敗談とかありますか。
鬼怒:あるライブをJIROKICHIで無観客でやることになったのですが、JIROKICHIはス
タッフの方たちが曲が終わったりしたときに拍手してくれたりするじゃないですか。で、
こっちも反応があってうれしいから、MCで、つい配信ということを忘れて、スタッフの皆
さんに向かって語りかけてしまったことがあった。あれは、あとでアーカイブを観てよく
なかったなーと。
配信ライブは、カメラの向こうの視聴者に向けてやっているわけだから、ちゃんとそれを
意識しないといけないなって。
金井:なるほど……お客さんはカメラの向こうにいるわけですもんね。でも、やっぱり生
の反応には応えてしまいますよね。
小峰:私も最初に配信やったとき、ジャカジャン! って曲を終えて、どうだっ! って
ドヤ顔決めたけど誰もいない……みたいな笑。
あ、そうか、これに慣れなければいけないんだ……お客さんはカメラの向こうにいるんだ
って。
金井:ZABADAKは何度もテレビ出演とかあったりしたと思うんですけど、感覚はそれと
同じじゃないんですか。
小峰:いや、テレビはスタジオにスタッフがたくさんいるし……。
鬼怒:テレビより、きっとラジオのパーソナリティーのような感覚なんじゃないかな。
小峰:でもラジオはラジオで、それ用のスペースがあって、見えないリスナーを意識する
って感覚があるんだけど……ライブは、いつもならこの曲でワーって来るところでそうな
らないから……。
二回目以降はそういうもんだって割り切ることができたけれど。
でも、いいなと思ったのは、無観客だから、本番前でも会場をウロウロできるってこと
笑。まだお化粧とかしていなくても自由に動き回れる笑。
鬼怒:そうだよね、ギリギリまで練習とか準備ができる。
金井:なるほど……あらためて思いますが、お客さんに来てもらってミュージシャンに演
奏してもらうという当たり前だったライブの現場が、こんなに変わってしまうなんて想像
もしませんでしたね。
小峰:ねー、本当に。
鬼怒:コロナ禍の初期のころ、現状のライブをどうやって凌げばいいのかみたいな話題
を、普段ライブに来てくれる人たちとSNSでやりとりしていたことがあって。
「ミュージシャンもお客さんも全員マスクをつけてライブやったらSFみたいで面白いんじ
ゃないか」って冗談で言っていたんですよ。そうしたら……ほんとにそうなっちゃった笑。
金井:僕たちは今はSFの世界にいるんですね笑。
なにか良いことが起こるんじゃないかって思った
金井:そんな中、去年の6月くらいでしたっけ、鬼怒さんにお声かけいただいて、小峰さ
んと、荻窪ルースターの佐藤さんと、高田馬場音楽室DXの賀山さんと僕の五人で、新宿の
「らんぶる」っていう喫茶店に集まって……最初の会合が行われたわけですが、鬼怒さん
はどういうきっかけで私たちを引き合わせようと考えたのでしょうか。
鬼怒:音楽室DXで無観客配信のライブをやったときに、店長の賀山くんと色々話をして
いたら、賀山くんが珍しく弱音を吐いたんですよ。あの賀山くんが笑……コロナで一変し
てしまった状況とかね。
その話の流れでアーカイブを残す場合の権利の話とか、著作権の話とかしていたんだけ
ど、思いついて、ZABADAKの小峰公子さんがJASRACのなんとか委員というのをやってい
て詳しいから今度紹介するよって話から、賀山くんが配信をやっているライブハウスの中
で着目をしている人がいるって話につながって、ジロキチの金井くんとルースターの佐藤
さんの名前が上がったんです。
共通の知り合いだし、じゃあ今度みんなで一回会おうかってことになった。
みんな、ミュージシャンもライブハウスも困っているわけだから、とにかく集まって話せ
ば何か良いことが起きるんじゃないかと思って。
小峰:意外にライブハウスの方々って横の繋がりがなかったんですね。その後音楽室DXで
やった第一回目の勉強会のとき、ライブハウスの方々がたくさん集まったじゃないです
か。みんな初めましてって感じで名刺交換なんかしていて。
みんな顔見知りなのかなと思っていたら、違ったんですね。
金井:そうなんですよね。ほとんど交流はなかったりします。
小峰:あの最初の勉強会のときは、集まって突っ込んだ話ができて、みんなすごく喜んで
いたような感じがありましたよね。
金井:素晴らしい集まりだったと思います。
新宿の「らんぶる」で最初に皆さんとお会いしたときも、初めまして、みたいな感じだっ
たんですけど、先が見えないし、著作権のことなど同じ問題に直面していて、きっとみん
な精神的に辛かったんですよね笑。
そんなときだったので、お互いの状況や不安を共感し合えたり、愚痴を言ったり、小峰さ
んにJASRACの話を伺えたりしたことは本当にありがたかったですね。
小峰:YouTubeなどの配信については、JASRACの内部も部署によって言うことが違った
り、後追いで解釈が決まったりすることがあって、結局皆さんを混乱させてしまう場面が
あって申し訳なかったなって思っています。
金井:いやいや、そういうもんなんだなって思いましたね。
JASRACの人たちだって、みんなが急に配信をやり始めるなんてきっと想定していなかっ
ただろうし。
配信ライブについて思うこと
金井:ところで、お二人はそもそも配信ライブについてはどう思っていますか。
先ほど、小峰さんのお客さんが「配信には心がない」って書き込まれた、というお話もあ
りましたが……。
鬼怒:そりゃ、これまで通りお客さんがいて、普通にライブができる方がいいのかもしれ
ないけど、配信を観て喜んでくれる人がいるならそれはそれでいいんじゃない? って思
います。僕は好きですよ。
小峰:私は……文化庁などが、コロナ禍における新しい芸術鑑賞……配信ライブをやるなら
機材費などの助成金を出すってのがあるけれど、それ、どうなのかなって思うんですよ。
新しい事業に助成するんじゃなくて、これまでやってきた活動に対して助成を考えて欲し
いって思う。
ライブハウスの方たちが新しいことを無理やり覚えてやるんじゃなくて、今まで通りに営
業できるように助成するべきだって考えなんです。配信ありきの助成金じゃ、ライブハウ
スの方たちの負担が大きすぎる。
私は、ライブハウスが取り組んでいる配信の良さも、その努力ももちろん認めますが、配
信をやるんだったらやっぱりこれまでプロとしてちゃんと仕事をやってきた人に撮ってほ
しいっていう思いがあります。
自分で覚えて自分たちで配信をやるとかじゃなくて。
だから、そういう考えでプロに発注して配信が成り立つような店が存続していける状況だ
ったらアリだと思います。
金井:なるほど。
小峰:もちろん頑張って自分たちで配信やっている人たちを否定するわけじゃないです
よ。
鬼怒:うんうん。人それぞれ考え方があっていいと思う。ミュージシャンだって配信に否
定的な人もいるわけだし。
それは仕方がないことなんで。
金井:いろいろな考えがある中、今後、この配信ライブってどうなっていくんでしょうか
ね。
小峰:以前のようにライブハウスに人が戻ってきたらどうなるのかっていうの、あります
よね。
鬼怒:今回のコロナ禍で配信の面白さに目覚めたって人もいるわけじゃないですか。
やりたくなかった人はやらなくなるだろうし、やりたい人はどんどんやる……みたいな感
じになっていくんじゃないかな。
小峰:お客さんが戻って会場が満杯とかなっても配信があるとしたら、カメラを置くスペ
ースも考えないといけないですよね。ホールコンサートとかだと、席をいくつも潰さない
といけないし。
鬼怒:あとは、メリットをどう活かすかですよね。
YouTubeだとアクセスが簡単だから、それこそ世界中の人が観てくれる可能性があるの
で、そういうメリットを活かしつつ、お客さんにも足を運んでもらって配信と両立できる
のはすごくいいと思いますね。
金井:なるほど……ちょっと前に配信フェスって盛り上がったじゃないですか。そんなに
上手く行ったっていう話は聞かないんですが……どうですか。
小峰:私が関わった福島の「クダラナ庄助祭り」は今回、たくさんの会場を中継してやっ
たんですけど、みんな結構楽しんでくれましたよ。もうちょっと色々改善されて面白くな
ればもっとできると思うんですけどね。
鬼怒:まだ未開拓な分野だし、最初から上手くいくということはないんじゃないかな。
大きい資本でも投入されていれば成功するのかもしれないけど。
金井:そうですよね。まだみんな配信やりだして1年ですもんね。
視聴者はもう配信に飽きている?
金井:話は戻りますが、小峰さんは定期的に配信ライブはやっていらっしゃるんですか。
小峰:いや、コロナになってからは定期的にはやっていないですね。ライブ自体あま
り……。
(2021年)6月に神戸でライブをやる予定があったんですが、それもこの三回目の緊
急事態宣言で中止になっちゃいましたし。5月に鬼怒さんと行くはずだったツアーの予定
もなくなったし、すごく暇です笑。
ZABADAKで毎年何本か決めてやっているライブの予定も、今年は、この状況で入れられ
ない感じですね。
金井:鬼怒さんは今も毎日のように配信ライブをやってますよね。当初よりみんな配信に
飽きてきて、視聴数が減っているって実感はありますか。
鬼怒:異常に減っているってことはないですね。
僕がやっている音楽のジャンルはマニアックだし、コアなことしかやっていないから、一
定数の熱心な方が観てくれていると思うんですよ。まあ、他のミュージシャンと比較した
ことがないのでわからないんだけど笑。
小峰:でも、いろんな現場で配信バブルは終わったっていう声を聞きますね。
鬼怒:確かに最初はバブルだったかもしれないけど、まあ、今は落ち着いて、普段のライ
ブくらいかな。
有観客でも入場制限があるので、会場にいらっしゃってくれるお客さんと配信を観てくれ
るお客さんを合わせて以前と同じくらいって感じじゃないかな。
金井:では、クロネコヤマトの制服を着なくてもやっていけるんですね笑。
鬼怒:うん、今のところは笑。
金井:きっとまだ入場制限が続くと思いますので、ライブは、配信とセットで開催される
のが通常になるのかと思われますが、ZABADAKはファンの方からもっと配信ライブをや
ってほしいという声はないのでしょうか。
小峰:一応、今年中にはもう一回やろうと思っているんですけど……。ただ、ホールコン
サートの配信は難しいと思っていますね。予算的にきびしくて。
前回は、配信チケットをちょっと安くしすぎちゃったのかもしれません。
金井:だいたい、配信チケットって、料金をどのくらいに設定したらいいのかよくわかり
ませんよね。
鬼怒:そう、料金設定は、賭けみたいなもんだからね。
小峰:JIROKICHIで収録した山下達郎さんの配信チケットは、結構高く設定してましたよ
ね。
私たちは、安すぎたんじゃないかって後で言われて……本当に難しいです笑。
ホールコンサートはちょっとしばらくはできないかな。
金井:そーですよね。
それじゃあ、ホールコンサートでのライブが中心だったアーティストの人たちは、今かな
り大変なんですね。ライブハウスで活動していたミュージシャンの方が小回りが効くとい
うか。
鬼怒:うん。そうだね。
小峰:うちの事務所は零細企業なので、もう大変です笑。
金井:身近でも、ホールのコンサートツアーをやっていたある大御所の方の事務所が解散
してなくなったとか、そういう話も聞きますしね。
小峰:お店だって大変でしょう。
神戸のチキンジョージがクラウドファンディングするってきいてすごくびっくりしました
よ。
金井:そうですね……。去年だけじゃなくて、今年も結局こんなことになってしまって、
もし来年もとなったら……いよいよやばいって感じになってきますからね。
小峰:早くワクチンが行き渡らないと……。
金井:でもワクチンの接種が進んでも、みんなすぐにはライブハウスに戻って来ないんじ
ゃないかって不安がありますね。収束しているのに、三密を避けるみたいな雰囲気がみん
なの習慣として残ってしまって……。
鬼怒:でも、最初は恐々だけど、みんなすぐ慣れるんじゃないかな。
考えてもしょうがない笑。
小峰:でも、きっとみんなライブハウスに来たがっているんじゃないかな。
やっぱり密がよかったって笑。
金井:ライブハウスなんて三密を提供する場ですもんね。
小峰:密から色々文化が生まれて来たんだから。
店側は、お客さんの目線で配信を考えるべき
金井:では最後になりますが、配信ライブを行っているお店に対して、なにかご意見があ
れば伺ってもよろしいでしょうか。
鬼怒:まあ、技術的なことを言えばキリがないわけだし……。
頑張ってください、お互いにがんばりましょう、ってことぐらいかな。
小峰:私は結構言っちゃうタイプなんだけど、配信スタッフが、もう少しミュージシャン
とコミュニケーションをとってくれると、ミュージシャンの方からもアイデアが出ていい
んじゃないかって思います。
お店も配信に一所懸命になっていて気がつかない、ということもあるだろうし、ミュージ
シャンの方もやりっぱなしみたいな人も多いので……。
金井:なるほど。まさに、このミュージックスクラムの勉強会ではそういうミュージシャ
ン側の意見を伺えたのも本当にありがたかったですね。気がつかなかったことがたくさん
ありましたし。持ち帰って、ミーティングで配信チームに伝えたりできましたから。
小峰:あとは……お店のスタッフの方々は、お客さんを入れる前に、座席に一度座ってみ
てほしいですね。冷房が効きすぎているとか、たくさん気がつくことがあるはずです。厨
房や、PAブースから観る景色とは違うものが見えたり。配信もお客さんの目線で観ること
が必要だと思いますね。
金井:なるほど。ご意見ありがとうございました。
それでは本日はこの辺で終わりにしたいと思います。
小峰さん、鬼怒さん、ありがとうございました。
鬼怒無月(g)
’64年神奈川県出身。高校時代より音楽活動を始める。
‘90年に自己のグループ,ボンデージフルーツを結成、’94年にバイオリン奏者勝井
祐二と共に発足したレーベル「まぼろしの世界」より現在までに最新作の
「Bondagefruit6」(’05年2月発売)を含む6枚のアルバムを発表。ボンデージフ
ルーツは’’98年”ScandinavianProgressive Rock Festival”、’99年にはサンフラ
ンシスコの”Prog Fest ’99″に招かれるなど海外での評価も高い。近年はアストル・ピアソラの最後のキンテートのピアニスト、パブロ・シーグレルのグループ、5枚目のアルバム「NULLSET]をスペースシャワーネットワークよりリリースしたクラシックギタリスト鈴木大介氏とのユニットThe Duo、コンテンポラリータンゴバンド “Salle Gaveau” また梅津和時、早川岳晴,ジョートランプという最強のラインナップによるハードJazz Rockバンド、KIKI BAND,壷井彰久とのERA,吉田達也の是巨人、Zabadakのサポート等日々自己のギタースタイルを進化させ続ける異才ギタリスト。
鬼怒無月HP http://mabokido.web.fc2.com/
小峰公子(ZABADAK)
福島県生まれ。1991年にkarakというユニットで キングレコードよりデビューし3枚のアルバムをリリース。吉良知彦のユニットZABADAKとデビュー当時より活動を共にし、作詩とヴォーカルを担当。コンセプチュアルワークやアートディレクションにも参加していたが2011年に正式メンバーとなる。TVCMは200曲以上、「Vガンダム」「狼と香辛料」はじめアニメやゲーム、「みんなのうた」「お母さんといっしょ」「いないいないばあっ!」などTV番組、演劇作品などへの詩や歌唱の提供も数多い。2014年3月に、物理学者・菊池誠氏、漫画家・おかざき真里氏との共著『いちから聞きたい放射線のほんとう~いま知っておきたい22の話』(筑摩書房)を刊行。2016年、夫でもある吉良知彦が急逝したが、未発表曲を2017年アニメ「魔法使いの嫁」エンディングテーマへ提供し話題となった。現在でもzabadakのメインメンバーとしてライヴ活動を続けている。
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